Principal interviewed
企業が学費を負担する「ワーキング派」は新たな社会の基盤づくりとして提案できる
長引く不況で、高校進学が難しい、学費が払えないといった、金銭面の問題が昨今、浮き彫りになっています。そんな中、代々木高校では、学校が提携する企業やお店で働く代わりに、会社が学費を負担してくれる「ワーキング派」を設定し、注目されています。その目的や意義、今後の可能性について、一色真司校長に話をうかがいました。
代々木高等学校 校長一色 真司 さん
伊勢志摩の有名なホテル、旅館、料亭で、優秀な料理人の下で修業を受けられ、給与が支給される「伊勢志摩 料理人コース」お金な面で就学が困難なら経済的な自立をするべき「ワーキング派」はもともと、「奨学金コース」と呼んでいたんですが、これを作った趣旨というのは、家庭の環境で進学できない子どもが増えている、
という状況にあることが大前提で、これを解決するために、お金がかからない学び方、通学の仕方がないものか、と考えたのが原点なんです。
実際、全日制高校を含めて経済的な面で苦しい思いをしている人はいっぱいいますし、とくに通信制高校は転編入などで出戻りをしてくる生徒が多い。余計にお金に関してシビアなんです。学費の相談を受けることも多々ありました。不登校の子どもでフリースクールの学費が払えないという家庭も山ほどいますからね。これを何とかしたかったんです。
私自身が大学までの学費を、奨学金とアルバイト代でまかなっていましたから、お金がないという環境や想いは、半分は分かっているつもりでいます。だからこそ、そういう家庭環境にあるならば、自立するということを覚えていかなければならないと思うんです。この場合の自立とは、経済的な自立という意味を含むことが大きな条件です。
奨学金をもらうだけだと、将来的に返金が難しくなる恐れがあります。もらいっぱなしの奨学金は今、ほとんどないですからね。これを作りたいという構想はあるんですが、現状ではちょっと厳しいんです。でも卒業したときに、生徒に借金を背負わせたくない。だったら自立する―。これが一番の方法だと考えたんです。早い年齢から職場というものを経験することは、私はとてもいいことだと思っているんです。
お金の面でも経験の面でも卒業時には雲泥の差がつく今、いろんなところで「30 歳成人説」が唱えられています。これはある意味、丁寧に育てられていると言えるかもしれませんが、言い換えれば、幼くしているという面もあるんです。本当は自立できるのに、「お前はまだ早い。まだできない」と育てられる。そんな状態で大学を卒業し、社会に出てもきちんと順応できるはずがない。ほとんどの人は集中治療室で過ごすんじゃない、雑菌だらけの社会で生きていくんです。もうちょっとその荒波にもまれる必要があると思っているんです。
そういう面も総体的に考えると、経済的に苦しいという時点で、きれいごとを言わずに、職場を経験すべきなんです。確かに入り口のところではちょっとしんどい思いをするかもしれない。でも出口のところでは雲泥の差がつきます。それはお金の問題だけじゃなく、経験として学べることが多いからです。「ワーキング派」では、お金が人質みたいな仕組みになっていますから(笑)、途中で簡単に逃げ出すわけにもいかない。そういう縛りもあるかもしれませんが、学校と職場との連携によってしっかり見られているというのは、初志貫徹をするという環境としては最高です。必ず気にかけてくれる大人がいる。気持ちが萎えてきたときに、だれかがちょっと
尻を叩いてくれる。それは、このシステムならではの長所です。
自分を知ってくれている人があっちにもこっちにもいるもちろん、生徒が働き、学びやすい環境づくりに対して、職場も学校もしっかりサポートします。スクーリングがある日は仕事を休ませてもらったり、きちんと就業していればそれを単位として認めたり……。そうやって自分のことを共通して知ってくれている人が、あっちにもこっちにもいる。私から見てもうらやましい限りですよ。
その典型例とも言えるのが、「伊勢志摩 料理人コース」です。おせっかいな料理長や世話人、おせっかいなその子分、おせっかいな職場の先輩。周りにはおせっかいな人たちばかりですよ(笑)。ある有名ホテルの総料理長などは、生徒の給料を天引きして口座を預かっていますし、その子が漢字が苦手だからと交換日記までしてくれるんです。そこまで面倒見てくれますから。
地域の後継者を業界で育むことができる、そして起爆剤になれる熱い方々がいた。そういう幸運に巡り合えたことも確かですが、このコースの意義にみなさんの賛同が得られていることが大きいですよね。これは一重にずっと地域おこしに協力してきたことが実った結果だと思います。私は開校当時から、産・官・学・民がよってたかって学校や生徒を構う、それらが一体となって育む高校ということを標榜していましたから、それが1つの形になったと言えるでしょう。
そもそも一流の旅館・ホテルで、一流の料理人の下で修業ができること自体が幸せなことだし、それだけでも彼らは看板としてやっていくことができます。しっかり自立するまで時間がかかる生徒もいましたが、これまで入学した子たちもよく頑張ってくれました。もうすぐ調理師試験があって、最初に入学した子が挑戦するんですが、首尾よく合格第1号になってくれることを祈っています
きちんとプロとして育ててもらえることも大事「パワーテクノロジー奨学金コース」でも、いい例がありましてね。25 歳で入学した男子生徒がいて、すごく真面目で意欲もあったので、IT企業のパワーテクノロジーに推薦したんです。実は彼にはパソコンのスキルはまったくなかったんですが、その会社は、大卒のエリートよりも、一生懸命やるタイプの人間が好きで、自分たちがしっかり育てて、「だれだってやればできるんだ」ということを、社会に見せつけてやりたいっていうところなんです。そういう応援団がいることも私たちにはうれしい限りですね。
「伊藤学校 東京コース」もユニークなコースです。伊藤幸弘さんの学校に入って、人気ラーメン店の「梅もと」に修業に行くものなんですが、業界では有名な親方さんがまた熱い人で……。「子どもたちのために一肌脱いでやるよ」って言ってくれたんです。あいさつなどにはうるさい人ですよ。だからこそ、このお店は味も確かですが、それ以上に雰囲気がいいんです。いつ行っても活気があって。大声を出す、そしてお客さんの喜ぶ顔を見るだけでもいい経験になっていると思いますよ。
そう考えると、お金をもらうことと同時に、きちんとプロとして育ててもらえることも大事なんです。お金をもらう=プロじゃないですか。ボランティアや手伝いなら仕方ないと思われることでも、お金をもらっている以上、ちゃんとやらなければいけない。そこで初めて育ててもらうという環境が生まれる。だから私はお金にこだわったんです。「安くてもいいから、この子たちにお金をください」と。それで彼らは大人になっていくんです。
自画自賛できるこのプランを全社会に向けて発信したいこの「ワーキング派」で、新しい形も生まれようとしています。今、中学3年生で、「東京 とらふぐ亭奨学金コース」を希望して入学したいという子がいるんですが、条件に合うお店が見つからず、自分で探すということになり、知り合いのところで採用されそうなんです。学校側では、提携している企業だけでの採用にこだわっていないので、先方の理解さえ得られれば一向に構わないというスタンスでいます。
学校が用意しているプランは、分からない人のためにパッケージにして提案しているだけで、「僕はこの会社に勤めたいんですが、いいですか」と言ってくれるのもいいと思っているんです。
そういった可能性の広がりも見込んで「ワーキング派」は、今後も力を入れていきます。企業の雇用に関して、今までの凝り固まった考え方だけじゃなく、「こういう発想があってもいいじゃないか」と、全社会に向けて発信できるものですし、新たな社会の基盤づくりとして提案できると確信していますから。それくらい自画自賛できる内容だと思っています。
代々木高校の「ワーキング派」
代々木高校では、働くその場を「学校」と考え、働きながら高校を卒業する仕組みを構築しています。そのため、金銭的な理由で進学を諦めかけた人の学び環境、先端技術・プロの技を身に付けたい人の学び環境、社会人になるための育ち環境を求めている生徒のために用意されたのが「ワーキング派」です。
学校と提携する企業や団体で生徒が働き、その企業・団体が奨学金として学費を負担するシステムで、奨学金の形態は―
@「研修費」もしくは「非課税給与」として会社経費で免除する。
Aひとまず貸し付けるが、年度末一定条件により「返済免除」を行う。
B「貸し付け」として給与から少しずつ返済する。
と、大きく分けて上記の3つの方法があります。
現在、代々木高校が設定している12 コースを紹介しましょう。
「with 留学コース」
(提携企業:With 留学サポートデスク)
さまざまな留学プログラムよって、高卒資格と英語力、専門スキルの一挙取得を目標とし、国際舞台での活躍も目指します。
ワーキングホリデーとして行くことも可能で、語学を学んだ後に就労ができるのも特長です。
「大阪 金龍奨学金コース」
(提携企業:株式会社アベブ)
入学時の授業料は会社が負担し、大阪の有名ラーメン店・金龍の各店舗にて就労しながら高校卒業を目指します。学費の用意の心配することなく、月々の給与を得ることができ、経済的にも自立できるコースです。
「伊勢志摩 料理人コース」
(提携団体:伊勢志摩料理人クラブ)
優秀な料理人が活躍する伊勢志摩の有名なホテル、旅館、料亭で、料理補助として住み込みで働き、月々の給与が支給されます。一流の料理人を目指すトレーニングを受けながら、高卒資格も同時に取得できます。
「三重 ワァークスジャパン奨学金コース」
(提携企業:ワァークスジャパン・アカデミー)
地域雇用と若年労働力問題に早くから取り組んできたワァークスジャパンにて、通年アルバイトとして働きながら学習に取り組み、高卒資格を取得。職場活動も単位として認められ、1年以上勤務すると授業料が免除されます。
「天理 調理師コース(奨学金)」
(提携団体:エコール・エル・ハヤシ)
介護施設、老人ホームを運営母体に持つ「エコール・エル・ハヤシ」が運営。関連施設で就労研修2年間の実績を積みながら学習することにより、調理師免許と高卒資格を取得できます。独自の奨学金貸与制度があります。
「東京 人材派遣奨学金コース」
(提携企業:株式会社キャリアコンサルティング)
未成年者だけでなく、18 歳以上で高卒資格取得を目指す方の高校授業料を、学校と提携する人材派遣会社各社が立て替えてくれます。コース生は、希望の地域と職種を選び、首都圏の各派遣先で派遣社員として勤務します。
「伊勢志摩 漁師コース」
(提携団体:和具近海鰹鮪船主組合)
カツオの一本釣り漁を行いながら高卒資格を取得します。年間約80 回の航海があり、一度の航海につき3?10 日ほど海上で過ごします。帰港した際に、まとまった休日を利用し、志摩賢島本校でスクーリングを受講します。
「奈良 奨学金コース」
(提携団体:NPO法人青少年自立援助センター ブルーム)
奈良県大和高田市内で、家族との共同生活を通じて生活習慣の改善から始めます。学習面でのサポートはもちろん、希望者
には就労訓練もできます。通学や居場所としての利用、家庭での学習支援体制もあります。
「東京 とらふぐ亭奨学金コース」
(提携企業:株式会社東京一番フーズ)
東京一番フーズが運営する「とらふぐ亭」の、若くて活気あふれる各店舗において勤務。奨学金は貸与方式、月々返還となっています。また、3年後卒業するまでに調理師免許や、ふぐ調理師免許を取得することもできます。
「バイク王奨学金コース」
(提携企業:株式会社アイケイコーポレーション)
バイクの買い取り専門店「バイク王」で働きながら高卒資格取得を目指します。応募資格は18 歳以上で、自動車免許を持ち、バイク好きで、意欲のある人。ふだんは全国の「バイク王」各店舗で就労しながら、年2週間ほど登校します。
「パワーテクノロジー奨学金コース」
(提携企業:パワーテクノロジー株式会社)
IT業界最先端会社で働きながら知識や技術、企業マインドも吸収し、ITスキルを身につける実践コースです。SEO対策で実績を上げるパワーテクノロジーに研修生として入社。給与が支給され、授業料も全額支給されます。
「伊藤学校 東京コース」
(提携団体:伊藤幸弘教育研究所)
伊藤幸弘教育研究所が開く伊藤学校の指導を受け、池袋の人気ラーメン店「梅もと」で働き人生修行を積みます。「梅もと」で数カ月間研修を行い、週に就労を3日、代々木高校東京本部で2日授業を受けて高校卒業を目指します。 |